遺産をそのまま相続することを単純承認といいます。単純承認では被相続人のプラスの財産とマイナスの財産(借金)を同時に相続することになります。従って、被相続人にマイナスの財産がある場合には、その借金を遺産の中から優先的に債権者に支払わなければいけません。
このマイナスの財産と認められるものは、具体的には借金や銀行などからの借入金、電気・ガス・水道・電話代などの未払い金、店へのツケなどの買掛金、住宅などの各種ローン、入院費などの未払い医療費(被相続人の子どもが立て替え払いしたものも含む)、貸家などの賃借人からの敷金・保証金などの預かり金などです。また、何人かで連帯して返済することになっている債務(連帯債務)のうち、被相続人が負担することが明らかになっている金額がある場合には、その額も含まれます。
相続の意思表示は、自分が相続人になったことを知ったときから3ヵ月以内にしなければなりません。仮に、何の意思表示もせずにこの期間が過ぎてしまえば返済義務を含め、すべて相続したものとみなされます。さらに、相続財産の一部を消費してしまえば、単純承認したとみなされます。この3ヵ月間を熟慮期間といいます。この期間中に相続の意思表示をすると、その後の変更はできません。
例えば「全財産の1割を贈与する」というように、遺産全体に対する割合を指定して遺贈される人もいます。このような方法で遺贈された人を包括受遺者といいます。包括受遺者は、他の相続人と同様、指定された割合に応じて被相続人の返済義務も引き受けなければなりません。一方、例えば「指輪類は妹に遺贈する」というような、遺産の中で特定のものを遺贈された特定受遺者は、遺言に特別の指定がない限りマイナス遺産の返済義務を負うことはありません。なお、遺言書で遺産を贈られても、これを放棄することは自由にできます。
遺産の額や種類が判明するまでには、ある程度時間がかかるのが普通です。そこで、マイナスの財産のほうが多いと予想されるときには限定承認という方法をとることができます。これは、相続財産の範囲内でマイナス財産も承継するという相続方法です。結果的にプラス財産のほうが多ければ、差し引いた遺産を取得することができます。そのため、遺産額がプラスかマイナスかはっきりしないときに有効な方法といえます。財産目録の作成が、熟慮期間中(3ヵ月以内)にできないときは、期間の延長もできます。
最初からマイナスの財産のほうが多いとはっきりわかっているときには、相続放棄を選ぶことができます。相続の放棄は、相続人が相続放棄申述書を相続の開始から3ヵ月以内に、家庭裁判所に提出しなければなりません。家庭裁判所は、この申述書によって本人の意思を確認したうえで受理します。なお、相続財産の一部を処分したり、隠匿したりすると放棄は無効となり、単純承認したものとして扱われます。
相続放棄が家庭裁判所で受理されると、原則として取り消すことはできません。むやみに取り消しを認めると、他の相続人や第三者に迷惑をかける可能性があるからです。ただし、相続放棄の意思表示が、だまされたりおどかされて行われた場合や、法定代理人の承諾を得ない未成年者によってなされていた場合などは、取り消すことができます。